限定小説【No.7】

「は、え?」

「だから、天堂先生結婚したの」

「いつですか…?」

「ちさとちゃんが留学中によ。」

「………」

私は看護師をしている。違う科にいる天堂先生という人が好きだった。ずっと、好きで、天堂先生に、彼女がいる時から好きだった。その人が亡くなってからも、密かに見守ってきた、ずっと…。でも、2年半の留学が決まって、日本に帰ってきた時、告白しようと思っていた。なのに…、

「先輩、冗談ですよね…?」

「冗談じゃないって、あの夫婦
この病院の顔でもあるんだから。」

「顔?」

「あまりにもイチャイチャしてて幸せそうで、
その光景を見てると患者さん達癒されるんだって、
不思議と元気になって、頑張ろうって思えるらしいよ。」

「わっかんないです…」

「まぁ、私も最初は何それとか思ってたけど、
本当にこっちまで笑顔になるのよねぇ〜
2人にはそういう力を持ってるんじゃない?」

何それ、全く分からない。天堂先生はみんなに冷たくて、私にだって冷たくて、氷のような人だった。でも、彼女さんが生きてた頃、すっごく優しくて、本当は心の温かい人だって知ってたから…私は…。

「ちさとちゃん、そろそろ諦めて、幸せなったらどう?」

「先輩…」

「もう貴方は看護師としてベテランじゃない、
もう30だって超えてるし、いつまでも
天堂先生を諦めなかったら
ちさとちゃんは幸せになれない。」

「………」

「心配してるのよ、」

「ありがとうございます…」

「そろそろ私、看護師やめようと思ってるの」

「え?」

「主任としても、看護師としても充分働いたしね。
だから、ちさとちゃん、」

「はい、」

「主任、やってみない?」

「私が、ですか…?」

「恋愛も大事だと思う、けど、しばらくは、
新しい出会いがあるまで頑張ってみない…?」

「考えさせてください…」



新しい世界


「…主任か」

考えた事無かったな、天堂先生に告白する事しか考えていなかった。まぁそうだよな、もう30過ぎてる、天堂先生は結婚してる、私にはもう、この道を諦めるしかないのかな…。

「もー!先生!
仕事しすぎです!
少しは休んでくださいよ〜」

「無理だと思ったらちゃんと休む、」

「でも心配ですっ」

「……このくらいの事で泣くなって」

「だってっ…」

「…分かった、ちゃんと休むから」

「ほんとですか?」

「あぁ」

「ふふ、約束ですよ」

こんな病室の廊下のど真ん中で、この2人は何をやっているんだ。ていうか、天堂先生は、こんな人じゃなかった。いや、そうじゃない、あの頃の先生に、戻ったのか…。

「あら、ちさとちゃんじゃない」

「え、松本さん、まだ
入院していらしたんですか?」

「えぇ、そうなの」

「……」

「あの二人を見てると、
こっちまで元気になるのよねぇ。そう思わない?」

「そうですね…」

「天堂先生、本当に良かったわ、
いい人に出会えて。あのやり取り見てると、
病気の事バカバカしく思えてきちゃってね、
頑張ろうって思えるの…」

「……きっと、治りますよ。」

「ありがとう♪」

いい人に、出会えたのか…。そっか、これで良かったんだ。天堂先生が、前みたいに笑えてるなら、私はそれで…。

「ちさとちゃん…?大丈夫…?」

「変ですね…、涙が止まらなくて…、、」

「………」

「でも決めました…、私も、頑張ろうと思いますっ」

「……うん、頑張れ」

「はいっ♪」

高梨みやびofficialサイト

2020.5.21.スタート

0コメント

  • 1000 / 1000